−−10周年以降のTIMESLIP-RENDEZVOUSは、7年ぶりの4人によるフルアルバム『Re'TIMES』をリリースし、 冨澤裕之(dr)脱退があり、TIMESLIPに名前を変えました。この日々は金吾さんにどんな想いを巡らせましたか? 近藤金吾:音楽的なことで言えば、バンドと並行してソロとしてのキャリアが始まって。 ソロCDを出したりした訳ではないんだけど、バンド以外での可能性を試して、 それをバンドに返していきたいと思いながら活動していましたね。 トミー(冨澤裕之)に関しては同級生でもあるし、何も言わなくても分かり合える部分があったし…… そういう存在が脱退してしまったことは寂しかった。 −−脱退の要因って何だったんでしょうか? 近藤金吾:看板屋の長男と云うことでお父さんの仕事を継いでいかなきゃいけなかったのと、 ある素晴らしい女性と出会って結婚したことが重なって、音楽以外の人生を踏み出すことになったんだと思う。 −−ずっと共に活動してきた仲間が音楽から離れてしまった。そのことについてはどんなことを想いましたか? 近藤金吾:彼が音楽をやり続けたいと思っているのはヒシヒシと分かっていたんだけれども、トミーに限らず、 一旗揚げようと思っていたけれど田舎に戻った友達もいれば、別の世界に進んでいった友達もいる訳で。 この世界に居残って音楽を続けていくことが果たして良いことなのかどうなのか、というのは最近になって自分も思う。 上手く抜け出した、新しい人生を掴んだ、という捉え方もできるんだよ。こっちもいろいろやっていく中で上手くいかないことがあったりすると、 逆に彼らがすごく羨ましくなったり、「俺はいつまでも抜け出せないでいるのかな?」と思ったり、そういう意味で寂しくなったりもする。 −−それでも音楽を続けているのは? 近藤金吾:うーん……なんて言うんだろうな。もうやるしかない、ということかなぁ。 やっていれば、絶対、何か新しい道が開けたりとか、動いていれば新しい人と出逢ったり、付き合いを深められたりするし、 その中で自分の世界を作っていけるような気がしている。それが音楽を続けさせてくれているような気がする。 −−そして今年で50歳。半世紀を駆け抜けた今、どんな心境ですか? 近藤金吾:未だに音楽をやって歌っていられることについて、やらせてもらっている感じが更に強くなってきてる。 この歳になって思うことというのは、いろんな人のお世話になりながら生きてるんだなということ。 若い頃は自分の力で生きているような気がしていたけど、そうじゃないって今頃になって分かった(笑)。何をするにしても1人じゃできないし。 −−その50歳のタイミングでリリースする1stソロアルバム『惑星の日々』。 近藤金吾の純度100%を聴いたとき、金吾さんがやりたかったことは、やっぱりビートルズだったんだなと思いました。実際のところいかがですか? 近藤金吾:今回、まるっきりビートルズは意識しなかったんですよ。何も考えなかったらこうなったっていう。 あと、1曲目「大好きな君たちのために」に関しては、アレンジを上田禎くんが50歳記念に手掛けてくれたんですけど、 彼はデビュー前からTIMESLIP-RENDEZVOUSの音楽の核となるものをずっと一緒に作り続けてきていた人で。 そういう意味では1曲やってくれたことに対しては跳び上がるぐらい喜んだし、 多分「金吾さんだったら、こうしたらすごく喜んでくれるんじゃないか」という優しさが、 ビートルズに繋がっている部分があるのかもしれない。彼もビートルズ大好きだし。 −−また、歌詞を観たとき。音楽で未来を変えられると今でも信じてるんだなと思いました。 1曲目「大好きな君たちのために」はそれが顕著ですよね。 近藤金吾:不甲斐ない自分とか、頭の中だけで考えて一向に動き出さない自分とかいるけど、 そこから動き出す為の原動力って2人の子供の笑顔だったりして。自分が守っていかなきゃいけないものが、逆に僕を支えてくれている。 その中で生まれたのが「大好きな君たちのために」だったりするんですよね。ひとつの決心を歌った曲。 −−今って青森・深浦に家族を残しての単身赴任なんですよね? 近藤金吾:逆単身赴任(笑)。昔はみんなこっちに居たんですけど、いつの間にか向こうに行っちゃったんで。 −−どういう理由で? 近藤金吾:向こうは自然が多いし、自分もその中で育ったんで、子供にも同じように自然の中で育ってほしいなと思っていたんですよ。 自分のお故郷言葉、津軽弁で一緒に話し合えたら面白いなとも思ったし。 あとね、両親が歳取ってきて、孫と暮らす時間が少しでも長くあったらいいなって。そういういろんなものが重なったんですよね。 −−金吾さんも青森で暮らす選択肢はなかったんですか? 近藤金吾:0%でしたね。 −−こっちで音楽をやり続けることが絶対だったんですか? 近藤金吾:それもあるし、ウチの奥さんが僕の住むアパートを決めちゃって。「ここね」みたいな。 「じゃあ、俺、こっちに残るんだね」みたいな(笑)。 要するに「もうちょっとこっちで頑張れ。夢を諦めないでほしい」っていうことなんですけど。 −−ただ、子供の成長を近くで見ていられない寂しさはありますよね? 近藤金吾:そうなんですよね。子供の成長を間近で見ていたいとは思う。ちょっと気を抜くと大きくなってるんで。 自分が知らない間に大きくなっているのを見つけたときに、すごく寂しくなる。 上の子がまだ三輪車に乗ってるとき、自分が付き添って補助輪を取る練習を何度も何度もやったんだけど、全然取れなくて。 そしたらある日、俺がちょっと目を離した隙に、お母さんと一緒に居たときに補助輪なしで乗れちゃってて、すっごい寂しかったんですよ(笑)。 その瞬間を見たいが為に一緒に頑張ってたのに! そういうちょっとしたことが間近で見られないのは残念ですね。 今、2週間にいっぺんぐらいは青森に帰ってるんですけど、その2週間でもね、一気にグンと成長していたりするから。 −−自分の中でどこまで行けば一緒に暮らすことになるんですかね? 近藤金吾:…………すごいところ突いてきますね。どこまで行けば……どうだろうな? 多分ね、今一緒に住もうと思えば住めるとは思う。子供も「早く戻ってくれば?」ってサラッと言うんだけどさ(笑)。 2年前に親父が死んで、向こうにあった製材所も全部畳んで家の仕事がない訳だから、こっちにみんな呼んでしまえばいい気もするし、 もしくは俺が向こうを拠点にして東京にはライブや取材があれば出てくる形も考えられるし、 いろんなパターンは考えているんだけど、今はまだ答えは出てない。 −−目指しているものに到達できたとき、いろんなものを許せる自分って出てくるじゃないですか。 それって金吾さんにとっては何になるんですかね? もしくは到達点はないんですかね? 近藤金吾:ライブハウスとかで若いミュージシャンと呑んだりするでしょ。 すると、「ここまで続けてこれるのって凄いですね」ってみんな言うのね。 でもそういう風に思ってやってきてない。続けようと思ってやってきてないんですよ。どう説明すればいいんだろうな? 続けようと思ってやってきてないけど、続いてきてしまった。で、この歳になってしまったんだけど(笑)、まだやろうとしている。 −−先程のお話にも出ましたけど、今作には「HOPE〜君の思い出を抱いて〜」など身近な人の死が影響している楽曲もありますよね? 近藤金吾:そうですね。ウチのじいちゃんも死んでばあちゃんも死んで、それはもちろん悲しかったんですけど、 親父が死んだのは、自分の中ではすべてにおいて衝撃的な現実だったので、そのことを避けては通れなかった。 その悲しみとかは全然乗り越えてはいるんだけれども、親父の背中って絶対に乗り越えられないじゃないですか。 特に男はそう思うんだけど、それを亡くしてしまったというのはすごく大きかったですね。 なので、親父が死んだことで「だからこそ今を大切にしないと」っていう想いがどんどん強くなってきている感じはします。 −−かつても抗いようのない現実に対しての歌は発信していたと思うんですけど、そこの捉え方だったり表現って大きく変わってきていますか? 近藤金吾:うん。もちろん何があっても歩いてはいくし、立ち上がらなければいけないんだけど、その前に一回受け入れる気持ちが出てきた。 跳ね返しながら歩いていくんじゃなくて、受け入れながら、循環しながら歩いていくようなイメージ。 そうじゃないと、そろそろ保たなくなってきてる。昔は跳ね返してばかりでもよかったんだけど。 −−身近な人の死をも含んだ全てを音楽に昇華していく生き方というのは、自分の中でどう捉えていますか? 近藤金吾:陽な人と陰な人がいると思うんですけど、例えば倉本聰さんはキャスティングするときに、 過半数以上を陽な人にして、陰な人をひとりかふたり選ぶのが基本らしいんですよ。 陽な人と陰な人を見極めるには、その人がひとりでいて、なおかつ問題を抱えているときにどうやって夜を過ごすか。 それをイメージするらしいんです。それで見極めると俺は陽なんです。 もうどうにもならなかったら寝ちゃおう、みたいな。寝ちゃえば何とかなる、みたいな感じ。 だから今までネガティブなことも受け入れて曲を作ってこれたし、次に歩き出せたんだと思うし、今回のアルバムも作れたんだと思う。 −−50歳を迎えても音楽に懸け続ける。それは美しくもありますが、過酷でもありますよね。 でも歌い続けられているのは、根本的に陽な人だったから? 近藤金吾:そうだね。本当に人が俺のことを嫌いになるぐらい前向きというか…… 例えば、同じ悲しみを受けているのに「なんで金吾はもう次に行っちゃってるんだろう? 俺はこんなに悩んでんのに!」みたいな。 −−その前向き具合は今作によく表れていますよね。「あこがれの背中」では「夢を持とうよ」と今でも歌い続けています。 近藤金吾:今までも自分の作品の中で夢とか希望とかは書いてきたんですけど、この曲では「夢を持とうよ」とどうしても言いたかった。 思っているだけじゃなくて言葉にしたかった。夢を持っている人間って一番強いと思うのね。 「俺は夢があるんだ」って言った時点ですごく強く見えるし、可能性を感じさせる。 だから「俺には夢がある」って言ってほしいと思って。 −−それは誰に対して? 近藤金吾:あらゆる人に対してのメッセージになればいいとは思うんだけど、作っているときはとある人物が浮かんでいて、その彼が作らせてくれた曲。 ほぼすべて彼に言った言葉で構成されている。あと、この曲は元々「夢」というタイトルだったんです。 それを「あこがれの背中」に変えたのは、僕がとある男のことを想って書いたからなんだけど、彼はすごく若い頃にお父さんを亡くしていて。 で、この曲を作ったとき、ウチの親父はまだ元気だったから、その大変さの半分も理解してあげられなかったけど、 この曲を録音したのはウチの親父も亡くなった後だったから、同じ親を亡くした者として「あこがれの背中」というタイトルが相応しいと思ったんだよね。 −−また、今作のボーナストラックには、TIMESLIPのセルフカバー「針にかかった魚が自由を求めるように(50th Anniversary ver)」を収録。 96年発表のデビューシングルですが、奇しくも3.11後の日本と重なる楽曲になっています。自身ではどう思われますか? 近藤金吾:自分の中では普遍的なものをすごく感じさせてくれる曲だと思っていて、時代によって歌い方や聞こえ方が随分変わってくる。 で、この曲は「逃げ出してきてもいいんだよ」という部分がひとつのキーワードになってるんだけど、 誰にも支配されない自分だけの時計を持って、今いるところが嫌だったら逃げ出してもいいんだ。そういうメッセージがある。 例えば、与えられた場所でしか生きていけない弱者の人って、今一番問題になってると思うんです。虐待だったり、イジメだったり。 会社にもイジメはあるだろうし、老人ホームにもイジメはあるだろうし、そういう状況や、今、平賀くんが言った3.11で心痛めた人もいっぱいる中で、 この曲をもう一回歌えたのは嬉しい。で、今の自分の声で歌えたのもすごく嬉しいなと思う。キーも下げずに(笑)。 −−仕上がりにはどんな印象を? 近藤金吾:今の自分ができる精一杯の力で歌ったなって。良いか悪いかは分からないけど、精一杯歌えた。 −−今作『惑星の日々』は、リスナーにとってどんな役割を担ってくれたらいいなと思いますか? 近藤金吾:このアルバムを聴き終わった後、例えば自分のおじいちゃんを思い出してくれたり、 おばあちゃんの名前を思い浮かべたり、誰か好きな人の顔を思い浮かべたりしてほしい。 今、自分が住んでいる世界がすべてじゃないし、誰もがいつかは今いる世界を去らなければいけないんだけど、 だからこそ今の生活、今の周りにいる人たちを大切にして、限りある世界だからこそしっかり生きていこうと思ってもらえたらいいな。 −−ここから先はどんなストーリーをイメージしてるんですか? 近藤金吾:バンドがあってこそのソロワークだと思っているので、今回は50歳を記念してソロアルバムを作って、 いろんなところで歌わせてもらっていますけど、バンドも並行してやっていきたい。 あと、冒頭で言ったように10年ぐらい前から始まってきたものの集大成みたいなもので『惑星の日々』は完成したので、 また次のテーマが生まれたらソロアルバムは作ってみたいと思ってます。 今まで自分でイベントを立ち上げたりしてきたけど、これからはもうちょっとバンドでもソロでも音楽作りに集中したいと思ってます。 −−TIMESLIPではどんな作品を作りたいですか? 近藤金吾:『ELMIRAGE 〜HERE TODAY, HERE AGAIN』(2000年発表)みたいなアルバムをもう一度作りたい。 あのアルバムの良さって歌詞とか曲とか以上に、あれを作ったときのパッション。 バンドもそうだけど、エンジニアもスタッフもみんながひとつになって「これでもか!これでもか!」って作ってたんだよね。 「おまえ、ギター弾けねぇんだったら服脱げ!」みたいな(笑)。 それで「分かったよ!」って脱いでギターをバン!って弾いたら、エンジニアが「オッケー!」って叫んで。 あそこまでバンドのモチベーションを戻したいな。今はそれが出来なくてもどかしいんだけど、同じ人間なんだから絶対出来る。 −−では、最後にファンの皆さんにメッセージを。 近藤金吾:歌は心のタイムマシーンだと本当に思っているので、自分が好きな音楽の中にぜひ今回のソロアルバムを加えてもらえたら嬉しいな。 で、いろんな人や時を感じてほしい。あと、今回のジャケットは、ウチの親父と僕の2ショットで。 自分がデビューしたときと同じぐらい、人生にやる気満々の30代の親父と、これから50歳になろうとしている息子が合成で写っているんだけど、 タイムスリップものが大好きな俺としては注目してほしい。 |